日常的に四人のネタ混ざります
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
--------
東京の下町、明け六つの刻。 今年7つになる神尾くんは、 ボコボコのアルミ製のボウルを抱えて走っています。 ポケットには銅貨が一枚。 先程、おかあさんに「おとうふ2丁、買ってきて」と言われ おつかいに走っている最中なのです。 朝ごはんはまだ。 今から買って帰るお豆腐が、朝餉に並ぶはずです。 お豆腐屋さんの通りに飛び出すと、目の前に車が飛び出してきました。 本当は神尾くんが飛び出したわけですが、 危うく接触を免れて、朝の町に響く急ブレーキ。 神尾くんは驚いて尻餅をつき、 目を丸くして黒くてピカピカの車を見上げました。 停止と同時に後部座席のドアが開き、「ぼっちゃま!」と 制止するような運転手の声を無視して少年が降り立ちます。 神尾くんはポカンと口を開けて、自分と変わらない年頃のその少年を眺めました。 昨日みんなで、深司くんの家のテレビで少年探偵団を見ました。 探偵団のひとりが、テーブルに椅子で、パパママと洋食を食べているシーンを見て 神尾くんは「いいなあお金持ちだ!」と目を輝かせていたのですが 今、目の前に立った少年は、神尾くんのささやかな知識と本能がそれ以上だと告げます。 神尾くんを見おろす男の子が、何か言おうと口を開いた瞬間。 その見目の良い賢そうな頭にスコーン!と小気味良い音をさせ、 アルミのボウルが命中しました。 神尾くんが転んだ際に空に向かって飛んでいったボウルが 重力に引かれ落ちて来たのでした。 男の子は目から星を出してフラつき、 運転手が悲鳴に近い声で2度目の「ぼっちゃまー!」を発言しました。 神尾くんは、今朝のおつかいは大幅に遅れてしまう予感がしました。 男の子がひどく睨んでくる鋭い目つきに気付くと その予感は現実になる予感がしました。 おつかいが遅れるとは、朝ご飯が遅れるということ。 お腹が控え目に、ぐう、と鳴りました。 -------- 不動峰は昭和が似合う。 「神尾様でございますね」 「はい!」 広いポーチに立つ制服姿の使用人が、恭しく扉を開けます。 「おじゃましまー…」 「「いらっしゃいませ」」 「…こ、こんにちは!」 神尾が館の玄関を抜けると、数名のメイドと執事が そろって深々と頭をさげてきました。 こんな挨拶をされたのはオープンと同時に新宿の百貨店に入った時以来です。 あの時もびっくりしましたが、 彼らは店員さんではなく、跡部の家の人たちなので、 神尾も慌てて挨拶を返しました。 エントランスホールに続く階段を、優雅に跡部が降りて来ます。 「よく来たな」 「おう!跡部!」 かしずく大人たちに緊張してしていた神尾はホッとして跡部の側に寄ります。 その途中でフと足を止めてしまいました。 跡部が不思議そうに首を傾げます。 神尾は自分の足元を見て、次いで跡部の足を見て、使用人たちの足元を見ました。 スニーカーでふかふかじゅうたんを踏む事に激しい抵抗を感じているのでした。 ホールの真ん中はじゅうたんですが、端の方はつやつやした床のようです。 しかしいまさら迂回するのも変です。 「跡部、ここ、踏んでいいんだよな?」 「ああ?」 「土禁じゃねえよな?」 「おまえいつの時代の日本人だ」 呆れて言う跡部に続いて階段を上がります。 考えたくありませんでしたが、この吹抜けの玄関に 神尾の家はすっぽり入ってしまうでしょう。 今日も朝早く仕事に出かけた父の事を神尾は思いました。 神尾家の住宅ローンは30年返済です。 「跡部の部屋って広いのか?」 「あまり広くても落ちつかねえからな。…ここだ」 示された入口のドアは大きな両開き。 神尾は跡部の落ち着く広さは広いに違い無いと思いました。 しかし中に入ると、そこそこの広さの応接室でした。 「すげー、ふかふかソファだなあ、そっちの部屋は?」 横の壁に片開きのドアを見つけて神尾は興味本位に訊ねます。 「そっちは執事室だ。こっちだ。」 跡部は応接セットを素通りしました。 奥にまた重厚な両開きのドアがあります。 壁いっぱいのドアは立派すぎて、逆に見逃していたのでした。 「こ、今度こそ跡部の部屋だな!?」 「なに興奮してんだおまえ」 「遠いんだよ!!」 やたら力んで言う神尾の顔を見て、跡部はちょっと笑いました。 --そうだな、恋人の部屋っつーのは、緊張するもんだよな。 「うー、ドキドキするぜ!」 神尾は全く違う意味で緊張しているのでした。 -------- おわり |
今月のこよみ
記事別移動
ブログ内検索
おきにいり
しーゆー
ごきげんよう
|