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「Trick or treat!」
伊武深司の前に現われたカボチャオバケはそう叫んだ。
オバケが駆けて来た時、黒いマントの内側にチラリと緑のジャージが見えた気もする。
「……」
伊武深司は無表情でカボチャのかぶりものを眺めたままだった。
ジッと返事を待っていたカボチャは、ぼそぼそと声が漏れ始めるのを、しばらく聞く。
「…これって妖怪なんですかね…外国産だからモンスターって言った方がいいのかな…でもかぼちゃだし
子供が変装するんだよな確か…それより俺カボチャって好きなんだよな…それどうやって作ったんですか…
くりぬいて中身はどうしたんです…やっぱり煮つけですか」
質問を含むボヤキであることに気付いたカボチャオバケは、両手で自分の大きな顔を支えて戸惑いぎみに答えた。
「え、いや、これ食えないみたいで、細工用で」
「俺は緑のカボチャが好きです…このくらいの」
このくらい、と言いながら伊武は普通サイズのカボチャを手付きで表す。
「ああ、うん、オレもパンプキンパイとか好きだよ」
は?
「えっ」

パンプキンパイなんてちゃらちゃらした物を食うんですか妖怪が?しかもそれ、共食いですよ…?

「共食い…」
「あんた、カボチャのオバケでしょう」
「そ、そーですケド…」
返答に詰まるオバケを無視して伊武は構わず続けた。
「で?」
「はい?」
「何しに来たんですか」
「あっ、伊武くん、Trick or treat!」
「……」
思い出したように叫んだオバケに対する彼の反応は、最初と変わらない。
「…トリックは悪戯として…トリートは食い物だろ…つまり『悪戯orご馳走』…普通は菓子だろうけどさ…俺にとってのご馳走は…漬物なんですけど…この場合はオバケにとっての、ご馳走だよな…ちなみに何が好物か言ってみてください」
「へ?もんじゃとか?」

は?外国のお化けが、もんじゃ?

「あっ、違っ、伊武くん!俺の好物は伊武くん!」
「はあ。そうですか。」
不意に伊武はカボチャのオバケに近づき、黒マントの肩に手をかけ
大きなオレンジのカボチャの、おそらく頬あたりに唇を押し付けた。
しかし視界の狭いカボチャには伊武の行動が見えず、
残念なことに顔も分厚く感触も温度も伝わらない仕組みになっている。
「え?え?伊武くん今何したの?」
「好物だって言うからあげたんですけど」
「うっそ!わかんなかった!マジで?!何したの?!」

慌てるカボチャの頭をポコンポコンと手で叩き、
伊武は答えた。

「お菓子くれないから、悪戯したんですよ」



__________end

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