はぐっと突撃

驚きますね、そろそろ2月おわる！

続きからちょっと小咄。

［抱きしめたい千石さん］

大会で対戦した神尾くんのお友だちは
ストレートサラサラ髪の男の子で
今、俺が一番に気になる相手。

最近になってようやく、自分でも
ああこれは恋かもしれないと気付いた。

気付いたと同時に、たくさんの障害にも思い当たって
前途多難だなと考えて闘志が湧いた。


ところで俺は、健全な青少年だ。

俺の好きなコは性別が気にならないくらい美人で
でも女の子みたいだなんて事は無くて
試合中の顔は鋭くて力強さを感じるくらい魅力的。
だからつい見とれてしまう。
そして見てるだけじゃ物足りなくなるワケで…

ギューッと抱きしめられたなら、きっとステキだ。


どうしたら抱きつけるだろう？
もの静かなタイプだし、
友だちとスキンシップ取ってるのもあまり見ない。
試合に勝った時は喜びあうだろうけど、俺は学校が違うし不自然だ。

いっそ彼らの談笑中に飛び入りして
ふざけてるふりでいっぱい抱きついてしまおうか。
大丈夫かもしれない。
案外良い考えかも。
俺ってそーゆーキャラで通せるに違い無い。
日々の積み重ねが功を奏しそう。

今日も黒いジャージの集団を探してみると、運良く発見。
無防備に背中を向けている彼にピンポイントで忍び寄る。

「いーぶーくーん！」

ぎゅーっ

やった！大成功！
背中からべったり貼り付いたら
ジャージ越しでも伊武君の躯を全身で堪能できた。
癖になりそうだ！
今まで経験したどんなハグよりもきもちいい。


抱きしめたままでいると
彼のチームメイトが全員、顔を引きつらせて数歩、後退した。

神尾君が伊武君を見て
「す、すげー顔してるぜ深司！」
残念、伊武君の顔が見えない。どんな顏してるのかな？
覗き込もうかとして首を伸ばしたら
肩がビクンと反応した。
それに気付いたのか、頭にタオル巻いたコが両手をかざして宥めすかすように
「落ち着け深司、ここで乱闘騒ぎはマズイぞ！」
「堪えて！殴るなよ、蹴るのもだめだよ！」
ツンツン頭のコが慌てて言うと、伊武クンの頭がカクンと揺れて、
そしたらオールバックにしてるコが顔引きつらせて
「頭突きもダメ！」

遠巻きに、腫れ物でも触るみたいに
伊武君を伺っている。

俺はきもちいい伊武君の背中から離れることなく、
離れるつもりもなくて、
彼らの言葉の意味も深く考えなかった。だって、気持ちよかったから！

「伊武君はみんなに深司くんて呼ばれてるんだね！俺も深司くんて呼ぼうかな！」

伊武君の返事はなかったけど、身体を捩ってこっちを向こうとしていた。
嬉しくて力を緩めたら、

なんと！伊武君が抱きついて来たじゃないか！
これは夢！？
伊武君に抱きしめかえさ「うぐううううう！！！！！！」

伊武君の腕はガッチリと俺のわきをホールドして
横隔膜から内臓をねじ切るような壮絶に超絶な締め技を食らった。

痛い、とっても痛い、夢じゃないよ！

「ベアハグ！決まった！」
「た、大変だ！」
「千石さんを助けろ！」
「止せ深司！千石さんが白目剥いてるぜ！」



川の向こうの花畑から、大勢の美人に呼ばれた気がする。
でも、俺はもっとキレイでステキなコと触れ合っているから
そっちには行けないよ。モテル男はツライな。おねーさんたち、メンゴ。

激しい衝撃を食らって一瞬意識が飛んでいたらしい。
気がつくと何か延々と喋っている伊武君を連れて
俺に謝りながら不動産のコたちが引き上げるところだった。


１人、ぽつんととり残されて思い返す。
伊武君に抱きついたときの、あの満たされた気持ち
抱きしめ返されたときの、あの幸福なときめき。


これから伊武君をみかけたら、真っ先に抱きついてしまいそうだ。
もしかして、
俺が伊武君を好きだってことは、バレバレかもしれない！

だって、こんなにこんなに伊武君が好きだから…！


--------その後


「千石さん懲りないな」


「もしかして好きなんじゃない？」
「ああ、好きなのかも」
「うん…好きなんだろうね」

「「「…痛い目にあうのが…」」」