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5

丘の下草を撫でて、強い風が吹き抜ける。

跡部は前髪が邪魔になるのを振り払った。
マントは重いけれど、外では正装でいなさいと厳しく躾けられている。
そのことに不満は無い。
なにしろ自分は跡部景吾なのだから。
1人でこうして外出しているのは、快く思われないだろう。
その理由も同じだ。
跡部景吾に何かあってはならないからだ。
それを知った上で、こうして外を歩いているのは
あれを捜しているためだった。

あれは、この丘に吹く風のように、心地よいのに捉えらてはおけないもの。

「神尾」

神尾は草の上に足を投げ出しペタンと座っている。
跡部と違う粗末な下衣だが、そんぶん動きやすそうだ。
呼ばれて、屈託なく笑う神尾は気負わないその姿勢のままで応える。
「なんだ?」
「俺と来い」
跡部は自分の言葉に驚いた。
そんなことを伝えるつもりだったか?
神尾には神尾の、跡部の知りえない世界がある。
その世界を大切な掛替えのないものとして、自らもその一部と認めて、
神尾はそこにある。

それが跡部にはつまらない小さな世界に見えたとしても。
「跡部は、ガキだなあ」

知っている。
いろいろなものを持っていても
今年ようやく9つになる跡部には、自由にならない事が多い。

「てめぇに言われたくねーよ」
「おれは、小さい跡部を知らないぜ」
「何バカ言ってんだ、今こうして話してるだろう」
「そっか」
ぞんざいな言葉を投げつけても、神尾は笑うだけだった。
風に吹かれる草に視線を落とすと、草が揺れるのと同じ早さで
神尾との距離が空く。
跡部は驚いて舌打ちし、草を踏んで前に進んだ。
神尾はぐんぐん離れていく。
いつしか跡部は駆け足から真剣に走るまでになり、神尾を追っていた。
距離は縮まらず、やがて神尾を見失う。
正装が重い。
当然と思い身につけていた衣服を、初めて恨めしいと思った。

いつの間にか、風は止んでいた。

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