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3

バクバクとうるさい心臓の音。
飛び起き、目に入ったのは見慣れた部屋だった。
個人で使用しているマンションの一室だ。
ソファで寝てしまったようでクッションに埋もれ突っ伏していたらしい。
心配そうな神尾の声を聞いて身を起こす。
「ソファなんかで寝るの良くないぜ、跡部」
「…俺は寝ていたのか?」
テレビを見ていたらしい神尾が、こちらを見ている。
相変わらずの間抜け面だ、と思うが、今の状況では自分も相当かもしれない、とため息をついた。
そうだ、今日は神尾が遊びに来ていたのだと思い出して安心した。
久々に神尾の顔を見た気さえする。
「なんだよぅ、夢でもみてたのか?」
「ああ」
「しようがねぇなあ~、何か冷たいもの飲むか?」
自分を気遣う神尾が側にいる。
跡部は充足感にひたり、僅かに残る不安をかき消す様に小さく頭を振って前髪をかきあげた。
「そうだな。水がいい」
注文を聞いた神尾は頷いて、テレビに向かって元気よくつげる。
「深司!跡部が冷たい水飲みたいって!俺は冷蔵庫のジュース取って来るからな♪」
そしてスタスタとキッチンに行ってしまった。
跡部はポカンとその後ろ姿を見送り、テレビのノイズにハッとした。
高画質な液晶画面はまるで壊れたブラウン管のような砂嵐を映し出した後、
粗い画像の不気味な風景を写す。
古ぼけた井戸から、ヌッと白い手が現れ、思わずテレビ画面を凝視する。
音声は聞き取りにくいが人の声がする。
『まったく…神尾は…人使いがあらいな…まあ…ゆるすけど…』
跡部は消してしまおうとテレビのリモコンを探すが見当たらない。
もたつく間にも、井戸から現れた不気味な姿がこちらへと近寄って来る。
キッチンに向かう方が早いと判断してソファから立ち上がった。
『あれ…跡部さん…水は…?』
「神尾!おい、なんでテレビに…」
神尾は涼しい顔で冷蔵庫からジュースを取り出して、キョトンと跡部を見て首を傾げる。
「どうしたんだ?そうか、氷、いるか?」
「そうじゃねーだろ!」
「落ち着けよ跡部、氷とって来てやるからな!」
笑顔で言った神尾は、ベランダに繋がる掃き出し窓をカラカラと開け放つ。
高層階とはいえやけに強い風が室内に吹き込みカーテンが大きく煽られた。
外は明るすぎて真っ白に見えるほど眩しい。
「神尾?待て!」
「大丈夫だ、待ってろよ跡部!俺がリズムに乗って取って来てやる!」
ベランダに立った神尾は両腕と純白の羽を広げてフワリと上空へ飛び上がった。
跡部はギョッとしてベランダに駆け寄ったが、強い光で目を開けていられない。

「神尾!?おい、神尾っ、かみ…  神尾!」


「ちょっと、跡部クン。寝言でまで神尾くんかい?」
呆れた声が、頭上から聞こえた。

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