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陽が容赦なくアスファルトを焼いている。

歩くだけでも流れる汗に舌打ちし、跡部は夏服のタイを緩めた。
だが送迎の車を帰してしまった事を後悔はしていない。
この道の先には神尾がいるのだ。
陽炎がゆらめくのを追って歩いていたが、ふと左右を見渡し立ち止まる。

「…こんな道だったか?」
住宅地には炎天下を歩く者もおらず、風のない今日はやけに静かだ。
そういえば、セミの鳴き声も聞こえない。訝しみながら周囲を眺めた。
いつの間に知らない道に来てしまったのだろう。
普段ならあり得ない失態に顔を顰め、暑さのせいだ、と息をつく。
無駄にうろうろする気にもなれず
ポケットから携帯を取り出しボタンを押して、耳にあてる。
「神尾、今どこだ?」
『あっ跡部♪跡部は今どこなんだ?』
「近いはずなんだが…」
番地の表示でもないかと首を巡らせるが、耳にした言葉にその動きが止まる。
『ウソだろ、跡部は遠くに行ってるだろ♪』
普段と変わらない快活な声
「…は…?」
『跡部の居るところ、ここからスゲー離れてるぜ♪』
「なんだと?」
『だって見てみろよ、ふどう畑がずっと広がってるだろ』
「アーン?何バカな事を言っ……、」
呆れて言い返そうとしたが、携帯に気を取られていた跡部が顔を上げると
目の前は遠く見渡す限りの緑。
低木がどこまでも続く農園の風景が続いていた。
「ここは…、」
祖母方の所持していた別荘地のひとつだ。
跡部はこめかみを抑え、暑さをしのごうと木陰に向かって歩く。
『跡部よぅ、夏休みはヨーロッパだって言ってたろ?』
「ああ、確かそうだったな」
日差しを避ける場所に立ちぶどう畑を眺めると、この暑さもいくぶんかやわらぐ気がする。
麻のシャツに木漏れ日が影をつくる。
氷帝の制服に不満はないが、夏はやはり柔らかく着心地の良い物を選びたい。
「…制服、…俺はさっきまで制服じゃなかったか?」
跡部は眉をひそめて聞いたが、いつの間にか携帯は閉じてポケットに収まっていた。

神尾は最後に何と言っていたか、思い出せない。
不意に複数の子どもの笑い声が聞こえてきた。ざわめきの様に周囲に響いている。
あぜ道の人影を呼び止めようと跡部は木陰から歩み出た。

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